
💡 設計・開発者の皆様へ|そのヒンジ選定、本当に最適ですか?
【これで解決】ヒンジ(蝶番)の選び方完全ガイド
トルク計算から最新技術まで専門家が徹底解説
ヒンジの選定は、製品の使い心地や価値を左右する重要なプロセスです。しかし、「種類が多すぎる」「最適なトルクが分からない」といったお悩みはありませんか?
このガイドは、産業用ヒンジメーカーであるスタッフ株式会社が、長年の知見を基に、最適なヒンジ選定の「思考プロセス」を分かりやすく解説するものです。
1. ヒンジとは?【基本のキ】
ヒンジ(蝶番・丁番)とは、2つの物体をつなぎ、片方をもう一方に対して一定の角度で回転させるための機械部品です。ドアやノートパソコンの開閉のように、私たちの身の回りのあらゆる「動き」を支える、まさに縁の下の力持ちと言える存在です。
🔧 ヒンジの主な役割
- 支持: 扉や蓋などの重量を支え、安定させます。
- 回転: スムーズな開閉動作を実現します。
- 保持: フリーストップ機能などで、任意の角度で静止させます。
- 付加機能: 電気を通したり(導通)、ゆっくり閉まったり(ダンパー)と、製品に新たな価値を加えます。
2. 【用途別】基本的なヒンジ17種類の特徴
ヒンジには多種多様な種類があります。ここでは代表的な17種類を「基本」「機能性」の2つに分けて、その特徴と主な用途を簡潔にご紹介します。
【基本タイプ】
平蝶番
特徴: 最もシンプルで汎用性が高い基本形。
用途: 家具、建具、小型の箱など
長蝶番
特徴: 長尺で荷重を分散でき、強度が高い。
用途: ピアノの蓋、大型扉、工作機械のカバー
抜き差し蝶番
特徴: 扉を簡単に取り外せるため、メンテナンス性が向上。
用途: 配電盤、点検口、頻繁に着脱する扉
隠し蝶番
特徴: 閉じたときに外から見えず、デザイン性が高い。
用途: 高級家具、デザイン性の高い建具
ピボットヒンジ
特徴: 上下の回転軸で扉を支える。シンプルで丈夫。
用途: 店舗の入口ドア、大型扉
クリーンヒンジ
特徴: 摩耗粉の発生を抑え、清掃しやすい構造。
用途: クリーンルーム、医療・食品機械
【機能性タイプ】
トルクヒンジ (フリーストップ)
特徴: 摩擦力により、好きな角度でピタッと止められる。
用途: ノートPC、医療用モニター、各種ディスプレイ
クリックヒンジ (デテント)
特徴: 所定の角度で節度感があり、位置決め性を高める(ロック機構ではありません)。
用途: 車載ディスプレイ、角度調整が必要な機器
ダンパーヒンジ
特徴: 扉が閉まる際にブレーキがかかり、ゆっくり静かに閉まる。
用途: キッチン収納、便座、高級家具
パワーアシストヒンジ
特徴: バネの力で、重い蓋や扉を軽い力で開けられる。
用途: 工作機械の大型カバー、サーバーラックの天板
スプリング蝶番
特徴: バネの力で自動的に閉まる(または開く)。
用途: スイングドア、カウンターの扉
導通ヒンジ
特徴: ヒンジ部での可動配線を不要化し、配線の取り回し制約を低減する技術。
用途: 折りたたみスマホ、医療機器、ロボティクス/可搬機器
3. 特集:ヒンジ選定で最も重要な「トルク」の考え方
フリーストップヒンジを選ぶ上で最も重要なのがトルクです。トルクとは「回転させる力の強さ」のことで、この値が不適切だと「扉が勝手に閉まる」「操作が重すぎる」といった問題が発生します。ここでは、トルクの計算方法を具体例で見ていきましょう。
⚙️ 必要トルクの計算式
ヒンジに必要なトルク M は、主に「扉の質量 m」と「回転軸から重心までの距離 Lcg」で決まります(回転軸が水平で、重力モーメントが効く場合)。
M = m · g · Lcg · cos θ
- M: 必要トルク(N·m)
- m: 扉(可動体)の質量(kg)
- g: 重力加速度(9.80665 m/s² を推奨)
- Lcg: 回転軸から重心までの距離(m)
- θ: 水平面からの扉の傾き角度(度)※水平=0°で cosθ = 1
【適用範囲】この式は回転軸が水平のケース(上開き/下開きの蓋、モニターのチルト等)を想定しています。回転軸が鉛直の“開き戸”には重力トルクがほぼ作用しないため、この式は適用されません。
【角度定義のメモ】角度を鉛直から測る場合は、M = m · g · Lcg · sin θ となります(水平=90°で最大)。プロジェクト内で角度の基準を統一してください。
【符号について】上式はトルクの大きさを示しています。回転方向の符号は座標系の定義に従って付与してください。
💡 計算例:モニターの角度調整
例として、以下の仕様のモニターを支えるヒンジのトルクを計算してみましょう。
- モニターの質量 (m): 0.5 kg
- 回転軸から重心までの距離 (Lcg): 0.08 m (8 cm)
1. 最大トルクの計算
最もトルクが必要な扉が水平の状態(回転軸が水平、cosθ = 1)で計算します。
M = 0.5 kg × 9.80665 m/s² × 0.08 m = 0.392 N·m
2. 安全率と量産ばらつきの考慮
設計値は一般に1.5倍程度の安全率を目安に(用途・公差・温度・経年で最適化)。
操作感(軽快/重厚)は、トルク勾配・ヒステリシス・ダンパ設定など別パラメータで調整します。
0.392 N·m × 1.5 = 0.588 N·m
👉 この場合、約 0.6 N·m のトルクを持つヒンジを選定するのが適切です。
4. 【実践】最適なヒンジの選び方 3ステップ・チェックリスト
STEP 1: 用途・目的を明確にする
まず「何のために、どのように使われるか」を定義します。
- 開閉頻度は高いか? (→ 耐久性が重要)
- 好きな角度で止めたいか? (→ フリーストップ機能)
- 扉の取り外しは必要か? (→ 抜き差しタイプ)
- デザイン性を重視するか? (→ 隠し蝶番)
- 電気信号を通す必要があるか? (→ 導通ヒンジ)
STEP 2: 環境・制約条件を確認する
次に、ヒンジが使用される環境と設計上の制約を洗い出します。
- 屋外や水回りか? (→ ステンレス等の耐食性材料)
- クリーンルームで使用するか? (→ グリスレス、低発塵タイプ)
- 取り付けスペースは十分か? (→ 寸法、形状)
- 扉の質量、重心位置は? (→ トルク計算に必須)
- コストの制約は?
STEP 3: 候補を絞り込み、評価する
上記を基に候補を絞り込み、最終選定します。
- カタログスペックで候補をリストアップする。
- メーカーに相談し、最適な製品やカスタムの提案を受ける。
- サンプルを取り寄せ、実機で操作感や取り付け性を評価する。
📝 見積依頼用テンプレート(コピーしてご利用ください)
【案件名】〇〇装置用 扉ヒンジ 【用途】装置の点検用カバーの開閉と角度保持 【要求仕様】 ・扉の質量:約 1.2 kg ・扉の重心位置:回転軸から 150 mm ・希望トルク:〇〇 N·m(参考値) ・動作角度:0~110° ・保持方法:任意の位置でフリーストップ ・想定サイクル:20,000回 ・使用環境:屋内(温度 5~40℃) ・希望材質:ステンレス (SUS304) ・その他:RoHS対応必須 【ロット数】初回: 〇〇〇〇個 / 年間: 〇〇〇〇〇個 【添付資料】筐体と扉の3Dデータ、図面
5. 【画像付き】スタッフ株式会社の革新的ヒンジ技術
スタッフ株式会社は、お客様の課題を解決するため、常に新しいヒンジ技術を開発しています。ここではその一部をご紹介します。
導通ヒンジ

可動部のハーネスを不要化し、断線リスクを大幅に低減。 ヒンジ部で信号/電力/アースを伝送でき、レイアウトの自由度と信頼性を高めます。 ※筐体内部の固定配線は別途必要です。
360°回転フラットヒンジ

スムーズな360°回転とフラット収納に対応するモデルあり。用途により仕様は製品ごとに異なります。
グリスレス高トルクヒンジ

グリス不要でクリーン環境に最適。独自の摩擦材技術により、油分の飛散を嫌う医療・食品機械でも安定した高トルクを発揮します。
6. よくある質問 (FAQ)
Q1. フリーストップヒンジのトルクは、使用しているうちに弱くなりますか?
A. はい、摩擦を利用しているため、開閉を繰り返すことでトルクは徐々に低下します。そのため、製品に求められる耐久回数(サイクル寿命)を考慮して、トルクの初期設定やヒンジの材質を選定することが重要です。弊社では、要求されるサイクル寿命を満たすための耐久試験データもご提供可能です。
Q2. 1つの扉にヒンジを2個使う場合、必要なトルクは半分になりますか?
A. 理論上は半分ずつ負荷がかかりますが、実際には取り付け精度や製品公差により、一方のヒンジに負荷が偏ることがあります。そのため、単純にトルクを半分にするのではなく、合計トルクに1.5倍程度の安全率を考慮して、1個あたりのトルク値を決定することをお勧めします。
7. 【保存版】セットメーカー向け・ヒンジ用語集
ヒンジメーカーとの打ち合わせをスムーズに進めるための基本用語集です。カテゴリ別に整理しました。
基本動作関連
クリック (Click)
特定角度で「カチッ」と段階的に止まる機構。ユーザー操作感を強調。
フリーストップ (Free-Stop)
任意の角度で保持可能。ディスプレイやスタンドに多用。
ディテント (Detent)
クリック感を作る凹凸構造。保持角度を制御。
トルク (Torque)
開閉に必要な回転力。N·mやkgf·cmで指定する。摩擦式/バネ式がある。
機能・性能関連
ダンピング (Damping)
動きをゆっくりにする制御。安全性や高級感に寄与。
オーバートルク保護
設定以上の力がかかった際に破損を防ぐ安全機構。
リバーストルク (Reverse Torque)
往復方向で異なるトルクを設定する仕様。
サイクル寿命 (Cycle Life)
開閉を何回繰り返せるかの耐久評価。例:50,000回。
設計・形状関連
ヒンジピン (Hinge Pin)
回転軸となる中心部品。摩耗・強度に直結。
ナックル (Knuckle)
ヒンジの「ちょうつがい」部分。ピンで連結される。
オフセット (Offset)
回転中心がヒンジの取付面からどれだけ離れているか。クリアランス設計に重要。
開き角度 (Opening Angle)
最大開き角度。例:180°/270°。
材料・構造関連
フリクションプレート
トルクを発生させる摩擦部材。材質と表面処理が寿命を左右。
スプリング (Spring)
自動復帰やトルク補助に利用。コイル/板バネなど。
ダンパーオイル
動きを減速するオイル。粘度が性能を左右し、温度依存性に注意。
表面処理 (Surface Treatment)
ニッケルめっき・黒染め・PTFEコートなど、耐食性や摺動特性を向上させる。
信頼性・評価関連
バックラッシュ (Backlash)
ヒンジ開閉時の「ガタ」「遊び」。高精度品では最小化が求められる。
クリープ (Creep)
長時間負荷によるトルク低下現象。樹脂や摩擦材で発生しやすい。
環境試験
温度・湿度・振動・塩水噴霧など、実使用環境を想定した耐久試験。
規格適合 (Compliance)
UL、RoHS、REACHなど。市場・国・用途により要求は異なります。要件に応じた適合資料(例:IMDS/PPAP等)が必要な場合はご相談ください。
まとめ: 依頼時のポイント
セットメーカー様がヒンジメーカーに依頼する際は、以下の情報を明確に伝えると、より迅速で的確な提案が可能になります。
- 用途・取り付け条件: 重量、重心位置、取付スペース、使用環境
- 動作仕様: クリック or フリーストップ、必要トルク、開き角度
- 耐久要求: サイクル寿命、環境試験の要否
- 外観・材質要求: 表面処理、色調、デザイン性