
【アンテナ基礎講座】無指向性アンテナにおける放射効率とは
アンテナを選ぶ際に知っておきたい重要な指標の一つが「放射効率」です。
特に無指向性アンテナを使用するIoT機器では、放射効率が性能評価の要となります。
この記事では、無指向性の直線偏波アンテナを前提に、放射効率の基本から評価方法まで、分かりやすく解説します。
目次
! Point!
無指向性アンテナの総合的な性能評価には「放射効率」が最適です。
IoT機器のアンテナ選定では、VSWRだけでなく放射効率も必ず確認しましょう。
放射効率とは

風船に空気を入れるイメージで考えると分かりやすいでしょう。大きく膨らむ風船ほど、より多くの空気(=電力)が外へ放出されている状態です。
アンテナの放射効率とは?
アンテナでも同様に、入力電力がどれだけ空間に効率よく放射されているかを表すのが放射効率です。
- 入力された電力のうち、どれだけが実際に電波として放射されているか
- 0dBに近いほど効率が良い(理想的なアンテナ)
- 数値が低下するほど、電力が熱などに変換され損失となる
放射効率とは、アンテナに入力された電力のうち、実際に 電波として空間に放射された割合 を示す指標です。
放射効率と利得は別物
利得(アンテナゲイン/Gain)は指向性によるエネルギーの集中度合いを示すもので、 アンテナ全体として「どの方向にどの程度強く飛ばすか」を表します。一方、放射効率はアンテナに入力された電力がロスなく電波に変換される割合であり、全体的なアンテナ内部損失の程度を知る重要指標です。
無指向性アンテナでは、ゲイン自体は比較的低めでも、放射効率が高ければ「入力した電力の大半が空間に放射されるアンテナ」ということになります。
放射効率の単位

表記は「dB」(デシベル)と書きますが、
一般的な読み方は「デービー」と発音します。
放射効率の評価基準

放射効率は0dBを基準として考えます。0dBは理想状態(損失がない状態)を意味し、ここから数値が低下するほど効率が悪くなります。
0dBからマイナス方向に値が大きくなるほど、いわば「電力がガス漏れする」ように熱として失われるため、効率が低下します。つまり、 数値が0dBに近いほど無指向性アンテナとして"良いアンテナ" と言えるでしょう。
dBから%への変換表
計算式:
関数電卓アプリでの操作手順:
放射効率 (dB) | 放射効率 (%) | 意味 |
---|---|---|
0 | 100.0% | 理想的な状態(ロスなし) |
-1 | 79.4% | 非常に優れた効率 |
-3 | 50.1% | 入力電力の約半分が放射 |
-6 | 25.1% | 入力電力の約1/4が放射 |
-10 | 10.0% | 入力電力の約1/10が放射 |
アンテナ設計や放射効率でお困りですか?
もし放射効率やアンテナの選び方に不安がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。
スタッフ株式会社では、用途や環境に合わせたアンテナ設計・評価のサポートを行っています。
放射効率とアンテナ設計

上のグラフは、横軸に周波数、縦軸に放射効率を示しています
アンテナ設計のポイント

ロス要因を減らし、放射効率を高める
アンテナ設計では、放射効率を向上させるためのロス要因をいかに排除するかが最も重要です。具体的には、以下のポイントを押さえます。
- ▶ 最適形状の検討:端末のサイズや使用環境、アプリケーションに応じて最適なアンテナを選定します。弊社では必要に応じて、基板のグラウンドプレーンの形状や寸法にも工夫を加えます。
- ▶ 周辺部品とのクリアランス確保:アンテナの周りに配置される部品からの干渉を極力抑えます。配置の工夫によって、アンテナの放射特性が損なわれるリスクを軽減できます。
- ▶ マッチング回路の最適化:優先する周波数帯に合わせて、アンテナ直下の整合回路でチューニングを行います。不要な反射や損失を抑えることで、より高い放射効率を実現できます。

IoT機器のアンテナ評価:放射効率 vs VSWR
放射効率 | VSWR (Voltage Standing Wave Ratio) |
|
---|---|---|
指標の性質 | 電波の飛ばしやすさの指標 | 無線機への電波の出入りのしやすさの指標 |
評価範囲 | アンテナの入力から実際の放射まで、 すべてのロスを含む |
アンテナへの入力電力の 反射(整合)のみを測定 |
通信性能との関係 | 実際の通信性能に直結し、 無指向性アンテナの評価に最適 |
良好なVSWRでも、 放射効率が低い場合がある |
重要ポイント
無指向性アンテナを使用するIoT機器などでは、 VSWRだけの評価では誤った判断をする可能性があります。VSWRが良好(反射が少ない)でも、 アンテナ内部の損失やケーブルロスによって実際の放射効率が低い場合があるからです。総合的な性能を確認するためには、 必ず放射効率をチェックしましょう。
なぜ無指向性アンテナには放射効率の評価が重要か
無指向性アンテナを用いるIoT機器や無線通信端末では、放射効率が通信品質に直結します。以下では、放射効率が重要とされる主な理由や、実際の運用時に見落としがちなポイントを分かりやすく解説します。