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奥村–秦モデルとは?電波の届き方を見積もる基本

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第1回:このアンテナ、何m届く? 測る、弱まり方を式にする、設計の見通しを立てるを示す図。

IoT機器開発に活かす、奥村–秦モデルとアンテナ設置 | 第1回 / 全10回

第1回:電波はどこまで届く? 奥村–秦モデルを知る入口

たとえば、屋外のセンサーから100m先の受信機へデータを送る場面を考えてみましょう。無線を使う機器を考えるとき、まず気になるのは、使いたい場所で通信できるかどうかです。ところが、アンテナを一つ選んでも、それだけで「何m届く」とは決まりません。

電波は、相手に届くまでに弱くなります。その弱まり方は、距離だけでなく、使う周波数やアンテナの高さ、周囲の建物などによって変わります。通信の見通しを立てるには、まず「通り道で電波がどのくらい弱くなるか」を知る必要があります。

屋外の送信側から受信側へ電波が広がり、届くまでに弱くなる様子。電波伝搬モデルは、その弱まり方を見積もるための道具です。
電波が相手に届くまでの弱まり方を見積もるのが、電波伝搬モデルです。

そこで使われるのが、電波の届き方を計算で見積もる「電波伝搬モデル」です。「モデル」とは、現実の現象を、条件を入れて計算できる形に表したもの。その一つが、奥村–秦(おくむら・はた)モデルです。屋外で測った電波のデータをもとに、周波数・距離・アンテナの高さから、電波が途中で弱くなる量を見積もります。[1]

このモデルは、高い位置の基地局から地上の端末へ電波を届ける通信を想定しています。使える条件が決まっているため、冒頭のような100mの近距離や、低い位置の端末同士の通信に、そのまま使えるわけではありません。それでも、電波の通り道と機器の性能を分けて考えることは、IoT機器の設置を検討するうえでも役立ちます。

第1回では、まず「同じアンテナでも届き方が変わる理由」と「奥村–秦モデルで分かること」を整理します。その後、見積もった弱まり方と機器の性能を合わせて、受信できる余裕を考える流れを紹介します。最初から数式を覚える必要はありません。モデルを使える詳しい条件は、第2回で確認します。

今回のポイント

奥村–秦モデルが見積もるのは「通り道の損失」。通信距離は、機器の条件と設置環境を合わせて考えます。

まず試すこと:送る側・通り道・受ける側を描き、分かっている条件と現地で確かめる条件を一行ずつ書きます。

同じアンテナでも、届き方が変わる理由

同じアンテナでも設置環境で通信は変わります。
同じ機器でも、取付状態と相手までの環境によって届き方は変わります。端末側は無指向性アンテナを想定した概念図です。

静かな廊下と壁の向こうでは、同じ声でも聞こえ方が違います。電波も、アンテナの品番だけでは通信距離を決められません。次の三つに分けて考えましょう。

見るところ 確認すること
送る側 無線機、アンテナの位置・向き、ケーブル、筐体
電波の通り道 距離、両側のアンテナ高さ、建物や設備の陰
受ける側 相手のアンテナと受信機、どの機器で受信値を記録するか

奥村–秦モデルは、通り道の損失を見積もる道具

モデルは主に屋外の伝搬損失を見積もります。機器の送信出力・利得・配線損失と合わせて受信電力を考えます。
モデルは主に屋外の伝搬損失を見積もります。機器の送信出力・利得・配線損失と合わせて受信電力を考えます。

電波が伝わる途中で弱くなる量を「伝搬損失(パスロス)」と呼びます。奥村–秦モデルは、周波数・距離・アンテナ高などから、屋外の伝搬損失を見積もる経験式です。アンテナ単体の「到達距離」を直接求める式ではありません。[1]

奥村–秦モデルの出発点は、屋外で電波がどのくらい弱くなるかを調べた奥村氏らの実測です。[2]その結果を設計で計算しやすい式にまとめ、1980年に発表したのが秦氏です。[1]

奥村氏らの屋外実測を出発点に、秦氏が1980年に計算しやすい経験式を発表。設計では通り道の損失を見積もり、機器の条件と合わせて実機で確認する流れ。
実測に基づく予測方法を、計算で使える形へ。人物は架空の説明用イメージで、奥村氏・秦氏の肖像ではありません。機器・風景・グラフも研究の流れを説明するための模式表現で、当時の写真・測定記録や論文掲載図を示すものではありません。図中のLは伝搬損失、dは距離(km)、A・Bは周波数やアンテナ高などで決まる係数です。[1]

背景にあるのは、高い基地局から地上の移動局へ電波を届ける通信です。この成り立ちを知ると、低い位置に置いたIoT端末同士や、屋内の通信にそのまま当てはめられない理由も見えてきます。

順番 担当すること
① 条件を確認 周波数・距離・両側の高さ・環境をモデルの適用条件と照合
② 通り道を予測 奥村–秦モデルで伝搬損失を見積もる
③ 機器の条件と合わせる 送信出力・アンテナ利得・ケーブル損失を加減して受信電力を見積もる
④ 実機で確認 受信感度との余裕、雑音、変動、データの到達を確認
奥村–秦モデルの原著要旨に示された適用条件:基地局アンテナ高30〜200m、移動局アンテナ高1〜10m、距離1〜20km、周波数100〜1500MHz。低い端末同士・1km未満の近距離・屋内にはそのまま適用しない。
高い基地局と地上の移動局の屋外通信を想定したモデルです。数値は原著要旨の適用範囲に基づきます。周波数だけが範囲内でも、両側の高さ・距離・環境の確認が必要です。[1]

原著要旨に示された範囲は、周波数100〜1500MHz、基地局アンテナ高30〜200m、移動局アンテナ高1〜10m、距離1〜20kmです。都市部の広い範囲を高い基地局からカバーする通信が背景にあります。[1]

注:第1回・第2回の数値はHata(1980)の原著要旨に統一しています。NTIA/ITSの解説では周波数150〜1500MHzと整理されています。実際の計算では、使用する式・ツールの適用条件を確認してください。[1][3]

たとえば920MHzでも、両側のアンテナ高が1mで距離が100mなら、基地局高と距離が適用範囲外です。周波数が範囲内というだけでは使えません。低い端末同士や屋内では、現場に合う予測方法と実測で確認します。詳しい条件は第2回で扱います。

補足:dBの計算で受信の余裕を見る

送信出力10dBmから、送信ケーブルで2dB、通り道で100dB、受信ケーブルで1dB失い、受信は−93dBm。受信感度−110dBmに対して17dBの余裕。通り道の損失が120dBなら受信−113dBmとなり3dB不足。
上段は電波の強さを順に追い、下段は受信感度の線との差を比較した概念図です。線や矢印の長さは厳密な縮尺ではありません。両側のアンテナ利得を0dBiとした説明用の仮想例で、奥村–秦モデルから計算した現場予測ではありません。

図の青い線は受信感度より上、オレンジの線は下にあります。この「基準との差」が受信の余裕です。まずは、同じ機器でも通り道によって差が変わることを押さえましょう。

まず単位をそろえます。dBmは1mWを基準にした電力の大きさ、dBは電力の比や増減を表す単位です。dBmの値が小さくなるほど電力は弱く、−100dBmは−90dBmより弱い状態です。dBを使うと、何倍にも何分の1にもなる電力の変化を、足し算と引き算で追えます。

電波が通るところ 説明用の条件 途中の電力
無線機の出力 10dBmで出す 10dBm
送信ケーブル 2dB失う 8dBm
送信アンテナ 相手方向の利得を0dBiと仮定 相手方向のEIRPとして8dBm
電波の通り道 100dBの伝搬損失 −92dBm
受信アンテナ・ケーブル 利得0dBi、ケーブル損失1dB 受信機入力で−93dBm

EIRPは、送信アンテナの方向別の利得を含めた等価的な放射電力です。

dBiは、全方向へ均等に放射する理想的なアンテナを基準にした利得の単位です。0dBiはその基準と同じという意味で、「アンテナが働かない」という意味ではありません。実際の利得は相手の方向と取付条件に合わせて考えます。

受信感度は、決められた通信方式・速度・誤り率などの条件で受信できる最小電力の目安です。この例では−110dBmと仮定します。余裕は「受信電力 − 受信感度」で計算します。

図の数字を、2つの式で確認

受信電力:10 − 2 + 0 − 100 + 0 − 1 = −93dBm

受信の余裕:−93 −(−110)= 17dB

通り道の損失が120dBなら、受信電力は−113dBm。余裕は−113 −(−110)= −3dB(3dB不足)です。

余裕がプラスでも、安定した通信を保証するわけではありません。必要な余裕は、雑音・遮蔽物・時間による変動や求める到達率で変わります。固定の「何dBあれば安心」ではなく、実際に使う条件で確かめます。

アンテナの品番を変えなくても、通り道の損失だけで受信感度を上回るか下回るかが変わります。

「何m届くアンテナか」という質問だけでは答えが決まらない理由は、ここにあります。モデルは、この大きな引き算に入れる通り道の損失を見積もる道具なのです。

次にやること:設置条件を一枚に描く

機器と通り道の収支を一緒に見て、次に測る条件を決めます。
機器と通り道を整理してから、現物で確かめる条件を決めます。

送る機器と受ける機器を線で結び、距離・両側のアンテナ高さ・主な障害物を書きます。両端には、アンテナが筐体の内側か外側か、ケーブルがどこを通るかも描き足してください。分からない値は「不明」と残します。

使用周波数と製品の推奨取付条件を確認し、実際に固定できる候補位置を二つ選びます。比較では、相手側の位置と通信設定をそろえ、端末側の候補位置を一つずつ変えます。受信値だけでなく「何回送って何回届いたか」も記録すると、実際の使い方に沿って比べられます。

位置を比べる場合は、指定条件を守って移設できるアンテナを使います。基板に実装したアンテナや基板パターンの変更は、基板・機構の設計担当者と方法を決めます。

困りごとから読む

現場で残すメモ

  • 使用周波数・通信方式・送信出力や速度の設定
  • 距離・両側の高さ・向き・障害物・筐体とケーブルの状態
  • 比較した位置・日時・受信値・送信回数と受信成功回数

不明な値は不明のまま残し、設置写真や簡単な配置図を添えます。この記録が、次の試験やアンテナ選定の相談に役立ちます。

関連する回

参考文献・関連資料

  1. M. Hata, “Empirical Formula for Propagation Loss in Land Mobile Radio Services,” IEEE Transactions on Vehicular Technology, vol. VT-29, no. 3, pp. 317–325, Aug. 1980. 原典(DOI)要旨掲載:岡山大学研究者情報
  2. Y. Okumura, E. Ohmori, T. Kawano, and K. Fukuda, “Field Strength and Its Variability in VHF and UHF Land-Mobile Radio Service,” Review of the Electrical Communication Laboratory, vol. 16, no. 9–10, pp. 825–873, Sept.–Oct. 1968.
  3. NTIA/ITS, “ITS Open Sources the Extended-Hata Urban Propagation Model,” Apr. 3, 2017(Hataモデルを150〜1500MHzとする解説)。

参考文献の番号は、モデルの成り立ち・式・適用条件などの技術事項の参照先を示します。挿絵の転載元や、著者・発行元による監修・推奨を示すものではありません。本文は参照情報をもとに本記事向けに説明し、仮想例・計算例と実務上の確認方法は、文献の研究結果と区別しています。

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