
アンテナの利得(Gain)とは何か?
dBiの意味や無指向性アンテナの特性をやさしく解説します
皆さんは「利得」という言葉を耳にしたことがありますか?
アンテナ分野で語られる「利得」とは、簡単にいえば「アンテナが特定の方向へどれだけ強く電波を放射(または受信)できるか」を示す数値指標です。アンテナの「強さ」を見るとき、単なる「強い・弱い」ではなく、「どの方向がどれほど強いのか」を分析する際に用いられるのが、この利得というパラメータです。
単位は「dBi(デービーアイ)」
利得は「dBi(デービーアイ)」という単位で表されます。「dBi」は、他のアンテナやシステムとの相対比較にとても便利な指標です。IoT機器や無線LANなど、あらゆる無線通信分野で頻繁に使われています。
電波暗室で見る利得:リンゴでイメージしよう
上の画像は、電波暗室で利得特性を測定した際のイメージです。アンテナをZ軸上に設置し、XY平面で全方向から測定した結果をグラフ(極座標プロット)で示しています。
赤い線は、赤いアンテナで測定しており、青い線は青いアンテナで測定しています。
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無指向性アンテナの場合:
(赤いアンテナで計測した)赤い線で示されたグラフが、ほぼどの方向にも均一な利得(約0dBi)を保っている様子がわかります。つまり、全方位に同じエネルギーを放射する「無指向性アンテナ」のイメージです。この状態を、横に輪切りにしたリンゴで例えられます。リンゴを真横からスライスすると、芯を中心に全方位ほぼ均等な形が現れます。無指向性アンテナの利得特性は、まさにこの「横に切ったリンゴ」のような断面パターンなのです。 -
無指向性アンテナの『リンゴ』縦に切ってみた場合:
無指向性アンテナの利得は、リンゴを横に切ったときのように全方位に均一に電波を放射しますが、リンゴを縦に切ってみると少し違う特徴が見えてきます。
アンテナを縦方向に配置し、その利得を赤いアンテナで計測すると、利得のパターンは8の字のような形になります。これは、アンテナの長手方向で高い利得が得られる一方、アンテナの先端方向(上下方向)では電波がほとんど放射されないためです。
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高い利得:アンテナの側面方向に強い放射(リンゴの縦断面の膨らんだ部分)
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低い利得:アンテナの上下方向は利得が低い(リンゴの芯に向かう先端部分)
このように、無指向性アンテナの縦切りの利得特性は、リンゴを縦に切ったときに現れる形とよく似ています。電波はアンテナの側面を中心に広がり、先端方向には放射が少ないのです。
ポイント
この縦切りの利得特性を理解することで、アンテナをどの向きで設置すれば最適な通信が得られるかが分かります。例えば、無線LANやIoT機器ではアンテナの長手方向(電波が強く出る方向)を意識して配置することで、通信エリアの最適化が可能になります。
無指向性アンテナの特性をしっかり把握し、リンゴを切るように直感的なイメージで捉えることで、電波設計や配置がより効率的になるでしょう。
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電波法による利得制限とIoT端末での注意点
無線を用いる機器では、利得には電波法による制限があります。理由は、特定方向へ過剰なエネルギーを放射してしまうと、他の通信システムへの干渉や規制電力超過を引き起こす可能性があるためです。
IoT機器で使われる周波数帯(例:LTEやSub-GHz帯)では、一般的に最大利得を3dBi以下※に抑えることが多く求められます。設計段階で最大利得を把握し、必要に応じて調整することが、法令順守と安定した通信品質を実現するカギとなります。
※最大利得の制限は、使用する通信モジュールの出力や、周波数帯・通信方式により異なります。
まとめ
- 利得とは:アンテナが特定方向へどれだけ強く電波を放射するかを示す数値指標
- 単位はdBi:デービーアイ と読みます。
- 利得指向性のイメージはリンゴ
- 最大利得に注意:IoT機器などは法規定利得内(多くの場合3dBi以下)に収める必要がある
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弊社では、アンテナを組み込む際に安心して市場にリリースできるよう、利得を測定し、電波法の範囲に収められるように調整が可能です。
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